• 2024. 02. 02

島町より愛をこめて「時には生地屋の話を‐日本の生地ブランド‐」編

時には生地の話をしたい、島町洋服の中村です。
お馴染み『羅紗屋(オーダースーツの生地屋)出身のナイスガイ』のお話しに、一席お付き合いいただければ。
「今回、長すぎるから分けて服用してください。ごめんなさい。」

※毎度のことながら、用法用量をガン無視してのご案内です。
とはいえ、今回はそこまで濃くならないと思うんだけど。)
兎にも角にも、生地も仕立ても、好きかどうか、カッコよいかどうかじゃん!

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どんな服が好きか、一番カッコよいかね、決まるまでやりゃあいいんだよ。決まるまで。
…これ元ネタ伝わってるんでしょうかね。

さてさてね、今回は日本の生地ブランド「inocencia / イノセンシア」「NIKKE / ニッケ」について。
MADE IN JAPAN テキスタイルメーカーの魅力の一端をお伝えできれば幸いです。

国産生地をご紹介するにあたって、産地である「尾州」や、モノづくりの哲学にフォーカスを当てた記事は既に十二分にWEB上でご覧いただけるかと思います。
「生地と仕立てと出会う店」からの発信&リコメンドとして、少し角度を変えてご案内しますね。

inocencia / イノセンシア
当店でご案内する生地の中ではトップレベルのコストパフォーマンスを誇ります。
(スーツで税込み88,000円からお仕立て。スラックスは30,800円から。)
ただ「お安い!」というわけではございません。素材と機能、お洒落さも悪くねぇのです。

同価格帯の生地の多くが化学繊維を主原料とする中
収録されている全てのクオリティが、ウールを主とした天然素材ベース。
ちなみに、単純に原料として高価だから天然素材を持ち上げているわけではないのです。
羊さんが一年を通して屋外で快適に過ごすことができているのは、ウール自体の呼吸性(吸湿・放湿性)が高く、体温調節の機能に優れているから。
そんな優秀素材で織った生地、上記に加えて、長年のご着用の中で生じるテカりを(化繊に比べて)抑える耐久性の高さも生じてきちゃう優れものなのです。

ただ、化学繊維を一概に否定するわけではございません。
繊維の細さ(しなやかさにつながる)、光沢の強さ、耐久性、形態安定性など、ポイントを絞って比較した場合、ウールを凌駕する魅力を持つ繊維が、日進月歩で開発されております。
そんな中、現状ではそれらを総合した際の優位性がウールにあるため、そちらをおススメしている次第でございます。羊、可愛いし。

さて、優秀な原料を用いたファンクショナルな生地も「カッコよく」なければお洋服には適しません。
そこで、先にお伝えした「悪くねぇ」お洒落さでございます。

縦横双糸の立体的な仕立てに、ションヘル織りの柔らかさが加わった一挙両得な秋冬向けクオリティ。
ヴィンテージな表情、極めて英国的な色柄が楽しめたり…

シーズンを跨いでの活躍が期待できる程よい厚みとエレガントな光沢が特長のシリーズ。
スーツにも、ジャケットやトラウザーズの単品使いにもおススメでございます。

↑のシリーズから。キャバリーツイル的なニュアンス。良い感じです。

デザイン、着心地共に「丁度良い~」と、実用品としては最大の評価を得つつも、糸の希少性から現品限りで生産されないロストテクノロジーなシリーズ。
ビジネスアイテムの範疇で最大限楽しめる、控えめな色柄達。
(なぜその控えめシリーズの写真がないかというと、地味だからではなく、お店で見てほしいからです!本当に本当に。)

中村的には下のシリーズに「こういうのでいいんだよ こういうので」賞を差し上げたい。
スラックスとか、これほんとに良いのよ。
艶消しのざらりとした質感が魅力でして、スーツにすればこなれたカジュアルさを
異素材とも相性が良いので、単品使いの際はデニムやスニーカーとの組み合わせやすさを演出できるのです。

…あ。これじゃなくって。
このパンツとか。
いけてるでしょ? しかも、ウォータープルーフ。

高機能×シックでリーズナブル。
ギアにロマンを求める紳士淑女におすすめな「inocencia / イノセンシア」シリーズでした。

NIKKE / ニッケ
エントリーグレードから中級編のインポート生地と同価格帯のシリーズでございます。
(スーツで税込み110,000~136,400円にてお仕立て。スラックスは38,500円~47,740円。)
ですが…クオリティやファッション感度で比較すれば、老舗ブランドのハイエンドモデルと肩を並べる超優秀なシリーズです。羅紗屋的にもちょっと驚きました…。

「WOOL DENIM / ウールデニム」
カジュアルアイテムの定番素材を”ラグジュアリー”の極限に昇華させています。
いわゆる「ウールやカシミアで織ったデニム」は他社からもご提案ができますが、これはひと味違う。
「デニム風のスーツ生地」ではなく「スーツ生地屋が技術の粋を凝らしたデニム生地」でございます。
特有の”粗さ”と”不均一な染め”を再現するため、糸の段階から専用の加工と染色を施しています。
クオリティ毎の特長もございますが、共通するアドバンテージを先んじて2点ご案内いたしますと…

1つは「色落ちしない事」
仕立て上がりのインディゴブルーを長ーーーーーくお楽しみいただけます。

1つは「ナチュラルストレッチ」
糸自体の伸縮性が快適な着心地を演出。ポリウレタン特有の経年劣化もございません。

良いお召しを長く快適に着続ける。大人のお買い物にぴったりな生地なのでございますよ。

表紙もインディゴブルーでございます。

さて、見本帳を開いてみますと最初からクライマックスなのですが、Super140’s※の極めて細い原毛を「太く」撚り上げ、しわに強くタフに着まわせる厚みを持たせたクオリティ(オタクの皆様、まさかの「4PLY」です。)が先頭に来ています。
肌触りは非常にスムース。リジットデニムを思わせる光沢もあり、ドレスアイテム(ジャケットや革靴)にも合わせやすいテクスチャです。
太い糸で織られた厚みのある生地に、この滑らかさと光沢感。
なんて贅沢…デニムだけにしておくのがもったいないハイクオリティな生地でございます。

※すごく細くて貴重な羊の毛。細けりゃ細いほど良いってもんでもございません。
どんな糸にするか、どんな生地にするのか、どんな服にするのか…用途に合わせてベストな原毛の太さをチョイスすべく、生地メーカーさんたちは日夜研鑽を積んでらっしゃいます。

続きますのはSuper120’s※原毛を贅沢に使ったクオリティ。
しなやかな着心地、より滑らかな肌触り。春夏向けの軽やかな仕上がりも特徴でございます。
ビジネスウェアとしても難なくお召しいただける、大人しく、品よくアレンジされたドレスデニムです。
カットソーと合わせるセットアップや、オーバーシャツにもおススメでございます。

※かなり細くて貴重な羊の毛。細けりゃ細いほど良いってもんでもございません。
Super~’sってのは判断基準の一つとして心の片隅に置いておきつつ、仕立てるアイテムや着用頻度、環境に合わせたベリーベストな生地を見つけてくださいませ。(そっちの方が難易度高いんですが…ほら、拙者、元々生地屋ですさかい。)

表情豊かなSuper120’sシリーズでした。

玄人好みなんていうと敬遠されてしまうかもしれませんが、生地職人さんたちの静かなこだわりに満ち満ちたクオリティが最後に登場します。
冒頭のSuper140’sシリーズをよりタフに進化させたこのシリーズ。
太い糸でがっしりと織られたファブリック達。
いっそうデニムらしく、無骨なニュアンスが色濃くなる一方、上質なウール由来の滑らかさと光沢も健在です。
スウィングトップやカジュアルコート、スラックスなど…お洒落着をお仕立てする際にはぜひご検討いただきたく存じます。
カジュアルウェア、延いては作業服であったデニム生地に、ウール生地が極限まで近付くと、お上品なウィットと、洗練されたシンプルさを表現できるラグジュアリーな生地が生まれる不思議。
お洋服好きな紳士淑女の皆様におかれましては、これを見て触るだけでも、ご来店いただく価値があるんじゃないかなんて。

加えてですが、120年の歴史を誇るNIKKE社の紡績技術の賜物。なんと洗えます。(もちろん仕立てによってNGな物もあるので、要相談よ!)
シーズンレスに着用できる素材ですから、お家で洗濯できちゃうのも嬉しいですよね。
っていうか、至れり尽くせりで…そりゃー説明長くなるわよね。ごめんなさい。でもまだ続くで。

「CUBA BEACH / キューバビーチ」
1960年代から続くNIKKE社の春夏向けクオリティ。
品質やデザインももちろん素敵でございますが、先んじて「名前がめっちゃ良い」ということを強調したく存じます。
カリブ海の真珠と謳われる麗しのリゾート、キューバ。
開襟シャツに、ドライタッチで通気性のよい爽やかなカラーのスーツを合わせてモヒートを一杯なんて…。
生地の名前から、燦燦と照る日差しのもとでも、その優雅さと快適性を失わない生地が思い浮かびませんか?

これ、独断と偏見ではなくって、夏物の生地にはカリビアンな名前の物が他にもあるのです。
(SCABALのMontego Bay、HARRISONSのHAVANA、あと織り方でパナマ織りなど…)
キューバリブレにソルクバーノの様にカクテルにも使われてますよね。

60年代と言えば海外旅行自体のハードルが高いうえに、政治的にハチャメチャすぎてキューバに行こう!と思うことすら少なかったでしょう。(故にジェームズボンドがやたら行ってるイメージですが。)
キューバビーチ。エキゾチックに香る葉巻の煙やカクテルのテイストが想起させる、未知なる南国へのあこがれを込めた名前だったのかもしれませんね。

先述の通り、製品としてのポテンシャルも申し分ございません。
弾力と通気性に富んだ着心地、細かな凹凸から生じる、サラリとした肌離れの良さは大きな魅力です。ストロングウールと銘打たれた、太い原毛で引かれたコシのある糸がその立役者。
糸そのものの形態安定性が非常に高いため、シワにも強く、高温多湿の環境下でも凛とした仕立てを保ちます。
コストパフォーマンスが評価されがちな国産生地ですが、同様のコンセプトのインポート生地と「クオリティ」「感度」で比較検討していただけることを自信をもってお伝えいたします。

圧巻のカラーバリエーション。
南国のリゾートスーツに相応しいラインナップでございます。
光沢は控えめに抑えらておりますので、カジュアルさや“抜け感”のある仕立てに最適です。
ビジネスユースも可能なシックな色もございますので、ビンテージな風合いの春夏仕事服にもおススメです。

洒落者にはもちろん、タフさを求める方にも嬉しいのがこのシリーズ。
デビュー当時のクオリティでご案内する「オリジナル」キューバビーチでございます。
色合いはよりシブく、糸はより太く…風合いどころかビンテージそのものな仕立て上がりが期待できます。

見本帳の最後に出てくる4品番。
もはやどの立場からの感想か不明なのですが「や…やられたぜ。」だぜ。
ハリコシを強めたトニックタイプの生地でございまして、通常モヘアという山羊の毛を合わせることで強いハリやシャリっとしたドライなタッチ、光沢感を付加するのが特長です。
しかしながら、前半はウールオンリー。後半はウール&シルク。

モヘア不在なのにきっちりトニックしているのです。
というか、モヘアを使わないことで肌触りの良さが向上しています。
流石「ウールのニッケ」…120年の歴史は伊達じゃございません。

こだわりのスーツや、お洒落着としての仕立てをお求めの方に本当におススメな国産生地。
私も改めて調べていく中で、その魅力を再発見・再確認。羅紗の奥深さと不勉強を痛感いたしました。
インポート生地と並び立つこの魅力が、皆様に少しでも伝わっていれば幸いです。

かしこ

…って。
いやー。
これは長いわ。ここまで書いた段階で一旦最初の段落に戻って
「今回長すぎるから分けて服用してください。ごめんなさい。」って書いてきます。

書いてきました。
直下に(とはいえ、今回はそこまで濃くならないと思うんだけど。)って大嘘が書かれていて笑いました。
お読みいただいた皆様、本当にありがとうございます。
お疲れ様でございます。

これに懲りず、さながら日本織紀を目指して今後も発信して参ります。
今後もお付き合いいただければ…。

かしこ